鉄は妊娠期には摂取したい栄養素です。鉄は体内では、赤血球、貯蔵鉄(肝臓や脾臓、骨髄)、末梢血内(血漿)に存在します。赤血球に60~70%、肝臓や脾臓、骨髄での貯蔵鉄に20~30%、1%ほどが末梢血内(血漿)という内訳になります。
鉄は吸収された後、体内で再利用されます。赤血球は120日ほどで寿命を迎えますが、脾臓では鉄を再生し利用されるようにはたらき、赤血球内の鉄が不足した場合は、貯蔵鉄から補います。鉄欠乏疾患でなければ、鉄はすぐに体内から欠乏するわけではありませんが、女性は生理により鉄分が排出されるため、男性よりも摂取しておく必要があります。
そして妊娠期は、胎児の鉄の分も摂取が必要になります。
鉄は不足しすぎても過剰でも問題になりますが、鉄不足を招く要因としては、出血等による鉄の喪失以外に、食物からの摂取不足、吸収阻害が挙げられます。
食物からの摂取
鉄には吸収されやすいヘム鉄(ニ価鉄)と、吸収されにくい非ヘム鉄(三価鉄)があり、吸収率はヘム鉄で10~20%、非ヘム鉄で1~6%と差がありますが、非ヘム鉄は同時に摂取する栄養素により大きく吸収率が変わってきます。
多く含む食品
ヘム鉄(ニ価鉄):かつお、まぐろ、いわし、赤貝、レバー(牛、豚、鶏)
非ヘム鉄(三価鉄):あさり、牡蠣、菜の花、ほうれん草、ひじき、大豆、卵
ヘム鉄(ニ価鉄)を動物性、非ヘム鉄(三価鉄)を植物性と説明する文書もありますが、ヘム鉄、非ヘム鉄は動物性、植物性の区分けではなく、より多くの食材に含まれているのは非ヘム鉄(三価鉄)の方になります。
非ヘム鉄(三価鉄)は胃酸によって有機物を溶解しイオンとして分離した後、ヘム鉄(ニ価鉄)に還元することで吸収されるようになります。この還元の際に必要になるのが、ビタミンCです。
クエン酸やリンゴ酸に代表される果実酸などには、鉄を溶けやすくし吸収しやすい状態へと変化させるキレート作用がありますので、非ヘム鉄を多く含む食品を摂取する場合は、摂りたい栄養素です。また動物性たん白は吸収されるまでプロテクトする役割があります。
その後、ヘム鉄(ニ価鉄)はアポフェリチンと結合し、非ヘム鉄(三価鉄)になり貯蔵されます。
吸収阻害
非ヘム鉄(三価鉄)は鉄ポルフィリン複合体でプロテクトされていないため、吸収阻害が起こると言われています。明確な根拠があると言い切れないものもありますが、阻害要因として挙げられるのは、以下になります。
食物繊維、タンニン、カルシウム、アスコルビナーゼ、フィチン酸、シュウ酸、リン、リン酸、炭酸、レクチン
玄米に多く含まれるフィチン酸は、鉄を排出するため、玄米食を続けると貧血気味になる方もいらっしゃいます。
鉄欠乏疾患や治療が必要な状態でなければ、鉄に関しては、すぐに欠乏するわけではありませんので、食事のバランスを心がけること、同じ食材のみの食事を継続しないことで、吸収阻害による深刻な影響を受けない生活を送ることも可能です。
過剰摂取は避ける必要が
鉄は1日の摂取の上限量が示されています。
日本人の食事摂取基準(2015 年版)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf
閉経後の女性や男性においては、鉄過剰である場合もあります。この鉄の貯蔵され再利用される特性から、鉄過剰傾向の方の場合は鉄貯蔵量が増え、悪影響をもたらします。
急性過剰による影響可能性
・体重1キロ当たり20-60mgの鉄分を摂ると急性毒性により死亡
慢性的な過剰による影響可能性
・活性酸素の活発化
・C型肝炎を悪化(炎症)
・非アルコール性脂肪性肝炎を悪化
・心筋梗塞、心血管病変進行の可能性
・がん発生を促進する可能性
・感染症に罹りやすくなる可能性(不足の場合もリスクあり)
鉄鍋や鉄製茶器で煮込み料理や飲茶をすることで溶け出した鉄を摂取しているとも言われています。
ヘム鉄、非ヘム鉄の摂取において
妊娠期や激しい運動をする方で鉄補給のために、サプリメントを選択される方もいらっしゃると思います。
非ヘム鉄(三価鉄)は胃酸が少ない場合、ヘム鉄に還元されにくくなります。またサプリメントや鉄剤の鉄は非ヘム鉄(三価鉄)であることが多いのですが、、非ヘム鉄は鉄ポルフィリン複合体でプロテクトされていないため、空腹時や午前中など胃酸が少ない状態では胃が痛んだり、吐き気、びらんができることがあります。
ヘム鉄であれば、胃や腸に刺激を与えず吸収阻害影響を受けにくい面があり、さらに過剰吸収にならないよう体内で調整され得ます。
一方、貧血患者では非ヘム鉄の吸収率が上がるとの意見もあります。
最近のサプリメントでは、非ヘム鉄を還元しヘム鉄にしている鉄剤もあります。
鉄欠乏疾患や治療が必要な状態でなければ、まず食材から鉄摂取することを心がけ、その際ヘム鉄を多く含む食品の中には、ビタミンAを多く含む食品もありますので、妊娠期は鉄摂取を心がけることでビタミンA過剰にならないよう留意することも重要です。
同じような偏った食事メニューの場合、慢性的な鉄欠乏あるいは鉄過剰になることもありますので、不足しすぎず、過剰にならないようなバランスある食生活をこころがけましょう。
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