体内に存在する金属が発汗により発疹が出ることも
金属アレルギーは、皮膚に金属が接触して皮膚症状が現れるもの、歯科金属や食事、薬剤に含有される鉄など経口での金属摂取から、発汗中に溶出した金属イオンにより、汗をかきやすい部位など全身の皮膚に広がると考えられる全身型金属アレルギーと呼ばれるものがあります。
体内に存在する金属の90~99%は便中に排出されますが、残りは汗,涙,尿中などに排泄されると言われています。
全身型金属アレルギーにおいては、汗をかきやすい部位である手のひらや足の裏に発疹が出やすい傾向にあり、掌蹠膿疱症,扁平苔癬,紅皮症、汗疱状湿疹、亜急性痒疹、多形慢性痒疹、貨幣状湿疹などが発症、増悪しやすいと考えられており、金属の経口摂取制限により軽快するとのケース報告があります。
歯科用金属
歯科用金属には、鋳造冠や義歯にニッケルやクロム、アマルガムに水銀が用いられていましたが、その後、金銀パラジウム合金やレジン、インプラントにチタンが用いられるようになり、使用される金属の変化により、金属アレルギーにおけるアレルゲン陽性率にも変化が見られています。パッチテスト陽性率にはばらつきがありますが、ニッケルが減少し、パラジウム、チタンの陽性率が高くなっており、広島大学病院歯科にて平成18年4月~23年3月までの間での金属アレルギー検査を行った301人の中では、ニッケル(18.9%)、パラジウム(16.6%)、クロム3価(13.2%)、イリジウム(13.2%)の順に高いとの報告があります。
チタンは酸化被膜により耐食性が比較的高いと言われていますが、微量にアルミニウム、鉄を含んでいる場合があり、噛み合わせによって金属同士が接触するうちにチタンの被膜が喪失し、腐食、溶出する可能性もあります。
掌蹠膿疱症と金属アレルギーとの関係
掌蹠膿疱症は、手のひらや足の裏などに、痒みのある水疱、膿疱ができ、潰すと皮がめくれることが繰り返される慢性の皮膚疾患ですが、掌蹠膿疱症は金属が要因の一つとも考えられており、掌蹠膿疱症患者では、上記広島大学病院での調査ではパラジウム、クロム、ニッケルの陽性率が高いとの結果もあります。
歯の詰め物を取り除くことで、抜歯をすることで、約1か月後ほどから掌蹠膿疱症が軽快していった、というケースの報告もあります。
口腔扁平苔癬は、口腔粘膜に限局することも多い痛みを伴う発赤やレース状、網状模様のあるびらん、水疱があることもある皮膚粘膜病変で、原因の一つに金属アレルギーが考えられ、ニッケルへの陽性率が比較的高いとの報告があります。
金属アレルギーの診断
全身型金属アレルギーの場合も、診断にはパッチテストによる検査が第一選択となっていますが、全身型金属アレルギーでは一部にパッチテスト陰性を示す症例があると言われています。接触して発疹する金属アレルギーの場合は、汗をかきやすい、蒸れやすい部位での当該金属の接触を避けるのが望ましいと言われています。
また、アトピー性皮膚炎の方のなかで、(判別がつきにくいが)金属により増悪していると考えられるケースの報告もあります。
金属を多く含む食品
穀類、豆の外皮部分、たばこにも金属が比較的含まれていますが、外皮部分まで摂取しない場合や、ゆで汁として溶出する場合など、可食分としては少なくなる食品もある一方、減少しないままそれなりの量を摂取する納豆、チョコレートといった食品もあります。金属は生体維持に必要な栄養素となるものもあり、必要以上の制限は望ましいとは言えませんが、制限が必要な方は、調理方法なども工夫されるのが良いでしょう。
比較的含まれるとされる食品
ニッケル
ココナッツ、きなこ、青のり、ココア、緑茶葉、ほうじ茶葉、山椒、大豆、小豆、しそ実、セイジ、タイム、納豆、チョコレート、麦芽飲料、たかきび粉、ひえ粉、甘栗、キャロブ粉
質の悪いステンレス調理器具などニッケルメッキ製品
ニッケルの制限が望ましいとされる場合は、豆類、ツリーナッツ、玄米、そば、オートミール、ほうれん草、レタス、かぼちゃ、キャベツ、マッシュルーム、海藻、かき、鮭、にしん、香辛料、ココア、紅茶、ワイン、チョコレート、たばこの制限が挙げられています。
クロム
青のり、ひじき、セイジ、タイム、クローブ、ココア、ほうじ茶葉、田作り、プロセスチーズ、納豆、チョコレート、甘栗、たかきび粉、ひえ粉、キャロブ粉、シチューの素、みかんの缶詰、麦芽飲料、甜茶抽出液、しそ茶抽出液、青汁
クロムの制限が望ましいとされる場合は、馬鈴薯、玉ねぎ、マッシュルーム、香辛料、ココア、紅茶、チョコレートの制限が挙げられます。
コバルト
青のり、わらび、ココア、ひじき、ブラジルナッツ、クローブ、ドライイースト、ひえ粉、納豆、チョコレート、甘栗、キャロブ粉、紅茶、はまぐり、あさり、ずわいがに、麦芽飲料
コバルトの制限が望ましいとされる場合は、豆類、ツリーナッツ、キャベツ、レバー、ほたて、香辛料、ココア、紅茶、コーヒー、ビール、チョコレートの制限が挙げられます。
スズ
あおさ、タイム、セイジ、田作り、わらび、いわし煮干し、パプリカ、小麦胚芽、塩昆布、カレー粉、クローブ、インスタントコーヒー、山椒、黒コショウ、ブラジルナッツ、チーズ、納豆、キャロブ粉、麦芽飲料、みかんの缶詰
ほかに皮膚に症状が出ることのある亜鉛、マンガン、銅の制限が望ましいとされる場合もあります。
参考:
・歯科用金属アレルギーの動向―過去 10 年間に広島大学病院歯科でパッチテストを行った患者データの解析―
・全身型金属アレルギーの食事指導
―食物アレルギー代替食品。健康食品におけるニッケル、クロム、コバルト、スズ、亜鉛合有量について一
・歯科金属アレルギーの臨床
・食品の微量元素含量表
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