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腸内細菌叢と炎症、アレルギー~制酸剤、抗菌薬

2018.04.04

投稿者
クミタス

乳児においては胃食道逆流に至ることが珍しくはないところで、制酸剤が使用される場合もありますが、成長とともに自然に軽快することもあります。
国内では2018年4月から、耐性菌抑止の観点からも医師が3歳未満の乳幼児の風邪や下痢に抗微生物薬を使用せず適切な説明をすれば、医療機関に報酬を支払う診療報酬改定が厚生労働省より示されていますが、乳児の制酸剤、抗菌薬使用とアレルギー性疾患の発症リスクとの関連性を示唆する報告は今までにもなされています。

・生後6か月までに制酸剤、抗菌薬を使用していた乳児においてアレルギー性疾患の発症リスクが高くなる可能性を示唆する報告( Association Between Use of Acid-Suppressive Medications and Antibiotics During Infancy and Allergic Diseases in Early Childhood. )
アメリカで2001年~2013年の間に産まれた792,130人の子供の健康記録の分析では、生後6か月までに制酸剤であるH2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬を処方されていた児での各アレルギー性疾患のリスクは(調整ハザード比から)、
食物アレルギー:H2ブロッカー使用児2.18倍、プロトンポンプ阻害薬使用児2.59倍
薬物アレルギー:H2ブロッカー使用児1.70倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.84倍
アナフィラキシー:H2ブロッカー使用児1.51倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.45倍
アレルギー性鼻炎:H2ブロッカー使用児1.50倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.44倍
アレルギー性結膜炎:H2ブロッカー使用児1.48倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.15倍
喘息:H2ブロッカー使用児1.25倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.41倍
蕁麻疹:H2ブロッカー使用児1.30倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.27倍
接触性皮膚炎:H2ブロッカー使用児1.25倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.21倍
アトピー性皮膚炎:H2ブロッカー使用児1.12倍、プロトンポンプ阻害薬使用児1.12倍
と上昇しており、処方されていない乳児よりもリスクが高いことが伺えます。胃酸分泌抑制により消化を抑制する可能性が考えられますが、リスクは容量依存的で、制酸剤の使用期間が60日超の乳児では、それよりも短い期間使用乳児よりリスクが有意に高かったと報告しています。

抗菌薬使用児では(調整ハザード比から)、
喘息:2.09倍
アレルギー性鼻炎:1.75倍
アナフィラキシー:1.51倍
アレルギー性結膜炎:1.42倍
医薬品アレルギー:1.34倍
アトピー性皮膚炎:1.18倍
接触性皮膚炎:1.16倍
食物アレルギー:1.14倍
蕁麻疹:1.09倍
と、生後6か月までに処方されていなかった子供と比較し、疾患により差がありますが、アレルギー性疾患リスクの上昇が伺える面があります。

・生後1年内に抗菌薬を使用した乳幼児は、使用していなかった児に比べ食物アレルギーと診断される割合が高くなる可能性を示唆する報告( Antibiotic prescription and food allergy in young children. )
2007年~2009年の間に産まれた7,499人の子供のうち、食物アレルギーと診断されたのは1,504人、生後1年内に抗菌薬を使用した子供は、使用しなかった子供よりも食物アレルギーと診断される割合が1.22倍高く(調整オッズ比)、抗菌薬の処方回数が生後1年内で3回の児では1.31倍、4回で1.43倍、5回以上で1.64倍と食物アレルギーのリスクが上昇した。

食習慣、抗菌薬の使用は腸内細菌の構成に影響する要因となり、抗菌薬の多用による腸への影響としては、1つに偽膜性腸炎が挙げられます。抗菌薬などにより腸内細菌叢が攪乱されていると、感染したクロストリジウム・ディフィシル菌(Clostridium difficile)が腸内で異常増殖し、頻繁な下痢、腹痛、発熱などが現れることがあります。
発生頻度の高い院内感染症の1つでもあり、12日間の入院で21%の患者さんがクロストリジウム・ディフィシル菌感染をおこし、そのうち37%ほどで症状が見られる、との内容の記述もあります。

腸内細菌叢と炎症、アレルギー


腸内細菌による炎症への関与可能性としては、今までにもサイトカイン産生等の調節によるTh1/Th2バランスの改善可能性や、以下等が考えられています。

・制御性T細胞(Treg)を分化、誘導
腸内細菌叢は、炎症、アレルギー性炎症の抑制にかかわる制御性T細胞(Treg)を分化、誘導するとも見られています。なかでもクロストリジウム属菌による関与可能性が考えられており、またクロストリジウム属菌により食物繊維が発酵し産生される酪酸は、大腸粘膜局所において、ナイーブT細胞から制御性T細胞への分化を誘導する可能性が考えられています。

・Toll様受容体(TLR。トル様受容体)との関係
Toll様受容体は体内に侵入してきた病原菌やウイルスを認識して、感染防御反応を誘導する機能をもち、自然免疫と獲得免疫を繋ぐ重要な役割を果たしていると考えられています。
腸内細菌やプロバイオティクスはToll様受容体や他の免疫細胞の受容体を通じ、免疫系が正常に働くように調節するはたらきもあるとも考えられています。

・TLR4のDNAをメチル化
腸内細菌はToll様受容体(TLR)のうち炎症と関係すると言われているTLR4のDNAをメチル化する(DNA配列は変化させずにはたらきを抑制する)ことで、TLR4を通して病原性細菌などにより誘導される炎症反応を抑制するはたらきがあるとも考えられています。

経口免疫療法下で、Th2サイトカイン産生の低下、制御性T細胞(Treg)の誘導が見られたとの報告もなされていますが、制御性T細胞(Treg)の誘導は一時的であるとの報告や、耐性化群と非耐性化群とで制御性T細胞(Treg)数に差がなかった、との報告もあり(参照:診療ガイドライン2016)、まだ食物アレルギーにおいて明らかになっていない面もありますが、乳幼児において、必ずしも使用しなくても良い場合の制酸剤、抗菌薬使用は避けられることが望ましいでしょう。

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