真菌を吸入することで、気管支喘息などのアレルギー症状が出ることがありますが、真菌に感作した方が、真菌の含まれる食品を摂取することで、食物アレルギーの症状が出ることがあります。
アスペルギルス、クラドスポリウムといった真菌の胞子は、吸入アレルゲンの1つに挙げられますが、真菌の中には食品の発酵にも用いられる種類のものもあります。
サラミソーセージ:Penicillium chrysogenum blanc
カマンベールチーズ:Penicillium camembertii
ロックフォールチーズ(ブルーチーズ):Penicillium roquefortii
日本酒:Aspergillus oryzae
醤油:Aspergillus sojae
パン、ビール:Saccharomyces cerevisiae
真菌に感作した気道アレルギー症状のある成人患者を含めた34人を対象に、10種の真菌混合物で皮膚プリックテスト、皮内テストをおこなったところ、真菌感作群では17例(85%)が※シングルブラインドテスト陽性(スコア5以上)、非感作群では7例(50%)が陽性、2群間のスコアの中央値の比較では真菌感作群が有意に高値を示した(p=0.0096)と報告しています(Luccioli S, Malka-Rais J, Nsouli TM, Bellanti JA. Clinical reactivity to ingestion challenge with mixed mold extract may be enhanced in subjects sensitized to molds. Allergy Asthma Proc 2009; 30: 433-42)。
※シングルブラインドテスト:試験対象者にアレルゲンが含有していることを知らせないで検査する方法
過去症例においては、
・喘息症状があり、Penicillium chrysogenumにIgE反応、皮膚試験でアルテルナリア、クラドスポリウム、ぺニシリウム、カンジダに陽性の15歳女子がサラミを摂取し口唇浮腫、口腔咽頭咽掻痒症状あり
・喘息症状があり、Penicillium chrysogenumにIgE反応、皮膚試験でぺニシリウムに陽性の16歳女子が、サラミ、マッシュルーム、カードチーズを摂取し口唇浮腫、口腔咽頭咽掻痒症状あり
(Gonzalez-de-Olano D, Gandolfo-Cano M, Gonzalez-Mancebo E, Melendez-Baltanas A,Juarez-Guerrero R, Bartolome B. Different patterns of sensitization in allergy to dry fermented sausage. J Investig Allergol Clin Immunol 2012; 22: 152-3.)
・喘息、鼻炎、湿疹症状があり、カンジダ、サッカロミセスに陽性の7歳男子が、酵母エキス調味料を摂取し喘息発作をおこした
・喘鳴症状があり、カンジダに陽性の9歳男子が、酵母エキス調味料を摂取し喘息発作をおこした
(黒坂文武、西尾久英.うまみ成分として添加されている Candida utilis(別名:トルラ酵母)を含む学校給食を喫食後に呼吸困難を呈し、血中 Candida utilis IgE 抗体を証明した 2 症例-prick to prick test の有用性-.日小ア誌 2014;28:777-86.)
・Aspergillus oryzae由来のαアミラーゼ(Asp o 21)が使用されたパンの摂取でアレルギー症状を示した(Kanny G, Moneret-Vautrin DA. Alpha-Amylase contained in bread can induce food allergy. J Allergy Clin Immunol 1995; 95: 132-3.、Baur X, Czuppon AB. Allergic reaction after eating alpha-amylase (Asp o 2)-containing bread. A case report. Allergy 1995; 50: 85-7.)
・真菌感作した方がFusarium venenatum 由来のタンパクを添加物に使用した食肉の摂取でアレルギー症状を呈した(Katona SJ, Kominski ER. Sensitivity to Quorn mycoprotein (Fusarium venenatum) in a mould allergic patient. J Clin Pathol 2002; 55: 876-9.、Hoff M, Trueb M, Ballmer-Weber BK, Vieths S, Wuethrich B. Immediate-type
hypersensitivity reaction to ingestion of mycoprotein (Quorn) in a patient allergic to molds caused by acidic ribosomal protein P2. J Allergy Clin Immunol 2003; 111: 1106-10.)
・小児喘息の既往があり、アスペルギルス、ぺニシリウムにIgE反応、いくつかのバラ科の果物に経口掻痒症状あり、皮膚試験でアルテルナリア、アスペルギルス、ぺニシリウム、犬、ダニ、花粉に陽性の38歳女性がマッシュルームを摂取しアナフィラキシーをおこした(From respiratory sensitization to food allergy: Anaphylactic reaction after ingestion of mushrooms (Agaricus bisporus))
等が報告されています。
真菌と食物との交差反応性
アレルギー疾患の既往がなくても、Penicillium chrysogenumにIgE反応があり皮膚試験でぺニシリウムに陽性の4歳女子がサラミ、マッシュルーム、カードチーズを摂取し口唇浮腫、口腔咽頭咽掻痒症状を呈した例もあります。
真菌に感作した方で、マッシュルームにアレルギー症状がある場合は、マッシュルームの MnSOD(活性酵素の分解酵素)が関与している可能性が示唆されています。
また、真菌と、ほうれん草、マッシュルームに含まれる30kDタンパク質との交差反応性、アルテルナリアのAlt a 1 とキウイの Act d 2(ソウマチン様タンパク)との相関性、アスペルギルスとモモの MnSOD 間(約50%)やクラドスポリウムとラテックスのエノラー
ゼ間(約60%)の交差性を示唆する報告もあります(Aalberse RC, Akkerdaas JH, van Ree R. Cross-reactivity of IgE antibodies to allergens.
Allergy 2001; 56: 478-90.)。
真菌が含有される食品には、きのこといった菌類、酵母および酵母など真菌による発酵食品、添加物として使用されるものがあり、中には真菌感作している状態での摂取で、アレルギー症状が誘発される場合があります。
酵母エキスとして使用されることもあるCandida utilis(トルラ酵母)、Fusarium venenatumなど一部の真菌由来の添加物により、アレルギー反応を示す場合もあります。
また真菌と交差反応する食品においても、真菌感作している場合、アレルギー症状をおこす可能性があります。
成人のアトピー性皮膚炎の患者さんにおいては、約80%の方においてマラセチア属の真菌に感作しており(Yasuda H et al :Biophys Res Commun 1998)、アトピー性皮膚炎の悪化因子として、ヒトの汗の中に含まれるマラセチア属真菌「M.globosa」が産生するタンパク質「MGL_1304」の含有物が、ヒスタミン遊離を活性させているとの報告があります(Fungal protein MGL_1304 in sweat is an allergen for atopic dermatitis patients.)。
様々ある真菌アレルゲンの中で、食物アレルギー反応と関係する真菌のアレルゲンについては、意義のあるコンポーネントなど今後さらに明らかになってくるところであります。
参考・出典:ファディア株式会社 発行 真菌による食物アレルギー
真菌アレルギー~アレルゲンのクローニングと組換アレルゲンの診断への応用
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