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アレルゲン性の減弱、増強~メイラード反応

2020.08.13

投稿者
クミタス

食物を煎ったり、焼いたりする際に、アミノ化合物と還元糖が反応して、褐色物質(メラノイジン)を産生する「メイラード反応」が見られることがあります。メラノイジンは抗酸化作用や、またタンパク質の構造を凝集させるなどの作用を示し、アレルゲン性の増強や減弱に関わると見られています。
メイラード反応での糖鎖修飾による低アレルゲン化はすべてのアレルゲンタンパク質でおこるわけではありませんが、メイラード反応を生じた後、サクランボのPru av 1はメイラード反応により三次構造が変化し、IgE結合性が劇的に低下するともみられています。
また、甲殻類、貝類、軟体動物の主要アレルゲンの1つであるトロポミオシンに関しては、「ホタテのトロポミオシンではメイラード反応によりIgE 結合能が増強」され、「イカのトロポミオシンではIgE 結合能が減少」、「メイラード反応したカニのトロポミオシンは、体内消化による IgE 結合能の低下を抑制されるため、結果としてアレルゲン性が増強される可能性がある」、「カニは刺身やボイルなどで喫食するよりも、乾燥品や煮熟エキスなど、 メイラード反応を伴う調理加工品として喫食された際により強いアレルゲン性を発揮し得る」、との報告もなされています。

増強される例としてピーナッツが知られていますが、乾燥した中で高温処理する“ロースト”した(焙煎した)ピーナッツにおいては、IgE結合性が高くなると見られており、ピーナッツの主要アレルゲンの1つであるAra h2 のSS構造に変化が生じることで、トリプシンインヒビター活性が増強され、抽出物のIgE結合性が増強される、とも考えられています。
ゆでたピーナッツとローストしたピーナッツでのアレルゲン性の違い
https://www.kumitasu.com/contents/hyoji/2786

メイラード反応によるアレルゲン性への影響に関しては、糖鎖の結合によってアレルゲンタンパク質の高次構造が変化し、エピトープ(アレルゲンの一部)への IgE 結合を阻害していた立体障害が減少した、エピトープ(アレルゲンの一部)またはその周辺部位に対する糖鎖の結合に伴い、IgE結合が阻害された、メイラード反応の進行に伴い消化性が変化した、などが原因可能性として考えられています。

食品のアレルゲン性に影響を及ぼすものに、メイラード反応以外に「マトリックス効果」もあり、加工食品中のタンパク質、脂質、糖間などで影響することで、アレルギー反応性に影響するとみられています。
メイラード反応、マトリックス効果について、今後もご紹介していきたいと思います。


出典・参照:食物アレルギー診療ガイドライン2016
アレルギー総合ガイドライン2016
加工処理中に起こるメイラード反応がエビ・カニ筋肉の消化性とアレルゲン性におよぼす影響 北海道大学・大学院水産科学研究院 清水裕
Nakamura A, Watanabe K, Ojima T, Ahn DH, Saeki H. Effect of Maillard Reaction on
Allergenicity of Scallop Tropomyosin. J. Agric. Food Chem., 2005, 53 (19), 7559–7564.
Nakamura A, Sasaki F, Watanabe K, Ojima T, Ahn DH, Saeki H. Changes in allergenicity and
digestibility of squid tropomyosin during the Maillard reaction with ribose. J. Agric. Food Chem.,
2006, 54(25), 9529-9534

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