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黄色ブドウ球菌と食虫毒

2021.09.16

投稿者
クミタス

黄色ブドウ球菌は食品中で一定量まで増殖すると、その過程で産生される毒素のエンテロトキシンが食中毒発症毒素量に達すると考えられ、そのレベルの食品・飲料を食べたり飲んだりすると、約3時間前後に激しい嘔気・嘔吐、腹痛、下痢などの急性胃腸炎症状を生じます。1~2日で症状は改善することも多いですが、毒素量や個人によっても症状程度に差がみられ、発熱や脱水、ショック症状がみられたり、入院が必要な状態になることがあります。黄色ブドウ球菌は、酸素の無い状態や高濃度(15%)の食塩存在下でも増殖できる面があり、その毒素(エンテロトキシン)は、トリプシンなどの消化酵素や酸に対して抵抗性があるため体内の消化管でも消化されにくく、100℃で30分で加熱調理をして、菌は死滅してもエンテロトキシンは不活化されないと考えられています。

記録的豪雨時(平成24年8月15日/最高気温33.5℃)の救援物資のおにぎりが原因で、食べた住民157名のうち106名が嘔吐、下痢等を主症状とする黄色ブドウ球菌食中毒を発症した事例も見られています。
8月14日23時~15日2時  おにぎり製造
(炊きあがったご飯をラップした皿の上で100gずつ計量し、木型に詰めて整形し具を入れ型から外した後、ラップを張ったトレーの上で放冷、冷めた後、海苔で巻いたうえラップ包装していた。使用器具は塩素消毒され、手洗いの励行や使い捨て手袋の活用はされていた、とのこと)
15日9時頃まで  冷気に当てる
(おにぎりを発泡スチロールの箱に入れ、冷蔵ショーケースの前で冷気に当てて保冷)
15日9時30分  保冷車で納品
(発泡スチロール箱のまま、保冷車で市役所会議室に納品)
15日10時  詰め替え。保冷剤なし
(会議室にて地区の世帯数に合わせて段ボール箱に詰め替えられた。保冷剤等は入れられていなかった)
15日10時30分~14時  搬送準備~搬送
市役所からマイクロバスで臨時ヘリポートとなる運動公園へ出発~約10分で到着後ヘリコプター搬送準備が整うまで車中で保管~ヘリコプター搬送準備のため、段ボールをグラウンドに敷いたブルーシート上に降ろして待機(12時10分)~
一部地域への救援物資は陸路搬送となり、食糧30食分が引き渡たされた(13時38分)(この地域では4名発症)。
ヘリコプターのガソリン切れによる給油所帰還等のアクシデントが発生し、おにぎりの段ボールはグランド待機が延長し、おにぎりは最終便ヘリコプターに搬入(13時55分)~ヘリコプターで搬送され、地区代表者を通して各戸に配布された(14時)
15日15時~22時  住民に早期喫食の注意喚起等なく、住民が摂食
15日夜~深夜   有症者発症のピーク。
重篤な脱水症状により意識がもうろうとした独居老人の有症者には、救急搬送する等の救命措置がとられた。

黄色ブドウ球菌は、健康な方の手指や鼻腔にもみられる菌で、にぎり飯、いなり寿司などの手作業行程を経る食品、弁当、調理パン等の穀類を原料とした加工食品、畜産物なども比較的汚染リスクのある食品でもあります。
エンテロトキシンを増やさないようにするためには、
・十分な手洗い
・手指に化膿のある人は食品を直接触ったり調理しない
・調理時は帽子やマスクを着用する
・食品を10℃以下で保存
・食品製造から摂取までの時間を短縮する
などが対策として挙げられており、他の調査で製造直後に電子レンジによる加熱を行ったおにぎりにて、その後の黄色ブドウ球菌数、エンテロトキシン量が抑制された結果も見られています。
汚染食品においては至適条件下では時間経過とともに菌数、エンテロトキシン量は増加しますが、救援物資を搬送、配布、受取りをおこなう場合は、保冷をしない状態で長時間放置状態にならないよう、保冷下でできるだけ時間を要せずに搬送、配布、受取りができるのが望ましいところでもあります。アクシデントが発生し得る災害時は、対応できる衛生管理状況に合わせた食品選定、長時間経過したものは食べないようにすることも考慮されるのが望ましいでしょう。


出典・参照:救援物資のおにぎりが原因の集団食中毒 日本食品微生物学会雑誌 Jpn. J. Food Microbiol., 35(1), 23‒25, 2018
食品安全委員会 ファクトシート ブドウ球菌食中毒
米飯における黄色ブドウ球菌の食中毒発生要因の検討 宮城県保健環境センター年報 第 36 号 2018

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